Japanese Language Test JLPT 1992 Question Sheet 1kyuu Dokkai Bunpou 2
問題用紙
1992 1級
文字・語彙
日本語能力試験
問題Ⅱ 次の文章を読んで、後の問いに答えなさい。答えは、1·2·3·4から最も適当なものを一つ選びなさい。
これは、終戦後間もないころ、①友人から聞いた話である。彼は、だいたいが慎重な運転をする男だったが、ある日のこと、横丁から突然、そば屋の青年が自転車で飛び出してきて、彼の自動車と衝突してしまった。
幸い青年にケガはなかったが、自転車はメチャメチャ。さっそくおおぜいの人垣ができ、警.
察官もやってきた。友人が、「私には責任はない。その青年の不注意だ」と主張すると、その話を聞いた警察官は、②とにかく五千円払えば立ち去ってもよい、と言ったという。
友人が、「ちょっと待ってください。私には落度がないのに、なぜ罰金を……」と③問い返すと、彼は「いや罰金じゃない。青年がかわいそうじゃありませんか」と答えた。その青年はおそら く店にいられなくなるだろう、だからせめてメチャメチャになった自転車の代金の一部だけで も、と警察官は考えたのだろう。
④悪くすると、これは大きなトラブルになりかねない。友人は根が日本びいきで、日本語も日本人的心情も理解していたから、それ以上の論争にはならなかったが、どちらがよいか悪いかの問題ではなく、西洋と日本では、法や正義に対する考え方が、全く違うことがわかる。この警察官の考え方の中には、正義とか法とかいう理念よりも、きわめて日本的な情けや情といっ たものが深く入り込んでいたのである。
これは、実に人間味のある態度、考え方で、友人の話を聞いた私は⑤大いに感動した。理屈や理性だけで判断を下すのではなく、その前後の事情や個々の状況を参考にして、より人情味に あふれる決定を下すというのは、まさに人道的だと思う。
西洋的な法の観念に慣らされた者が、このような⑥日本的心情を理解するのは、かなりむずかしいことであるが、こういった⑦不合理な部分が許されるからこそ、日本は世界でも珍しく住みよい、人間のふれ合いのある国でいられるのではないだろうか。これらは、日本入が、みずからの長所として、もっと自覚し、誇りを持ってよいことである。
しかし同時に、こういった情は、なんとも定義しにくいものであり、客観的な法の理念の中に入れることは、なかなかむずかしい。そして、もしそれを許すなら、しまいには人権を守る ことさえできなくなってしまう。
(ヨゼフ·ロゲンドルフ「ニッポンの大学生』主婦の友社による)
問(1) ①「友人から聞いた話」の内容に含まれるのは次のどれか。
1.事故でおおぜいの人が死んだ。
2.事故でけがをした人はいない。
3.事故で友人は大けがをした。
4.事故で自動車が使えなくなった。
問 (2) ②「とにかく五千円払えば立ち去ってもよい」とあるが、警察官がそう言った理由として考えられるのは次のどれか。
1.おおぜいの人が見ていたから。
2.自転車は当時五千円くらいだったから。
3.筆者の友人には責任がないから。
4.青年の立場に同情したから。
問(3) ③問い返すととあるが、友人はなぜ問い返したのか。
1.自分に罪はない
2.まわりの人々に罪があると思ったから。
3.青年に罪はない
4.警察官に罪がある
問 (4) ④「悪くすると」とあるが、たとえばどうしいうことか。
1.青年がその事故で病気になったりすると
2.警察官がその青年にお金をあげたりすると
3.私がそれをほかの入に話したりすると
4.友人がそれを法的に問題にしたりすると
問 (5) ⑤「大いに感動した」のはなぜか。
1.青年にはケガがなかったから。
2.法と正義の理念が実現されたから。
3.警察官のやり方が人道的だったから。
4.友人がそれ以上論争しなかったから。
問(6) ⑥「日本的心情」について筆者が言いたいことは次のどれか。
1.人道的な面もあるが、自動車事故があると損をする人もいる。
2.人道的な面もあるが、法の理念とは 対立するところがある。
3.人道的な面があるので、日本の警察官はもっと誇りを持つべきだ。
4.人道的な面があるので、西洋の法律にも取り入れるべきだ。
問(7) ⑦「不合理な部分」とは、この場合どんなことを言うのか。
1.理屈だけで判断しないこと
2.罰金が安すぎること
3.西洋的な法の考え方に慣れていること
4.日本が住みやすいこと
問 (8) 文中の「友人」について、この文章からわかることは次のどれか。
1.日本語がほとんどわからない。
2.法の理念を勉強しに日本へ来た。
3.日本人の考え方がかなりわかる。
4.事故のあと日本がきらいになった。